中国の半導体メーカーZhaoxin(兆芯)が、自社のCPU全ラインアップにわたってDeepSeek-R1 Distill AIモデルをローカル展開したことを発表した。この動きにより、デスクトップPCからワークステーション、さらにはサーバーに至るまで、AIの活用が可能となる。
Zhaoxinの最新CPUは、1.5Bから671Bまでの多様なパラメータサイズを持つDeepSeek-R1モデルをサポートし、国産GPUアクセラレーターとも完全な互換性を確保。KaiXian KX-7000プロセッサを搭載したデスクトップでは、AIによる文書管理やコード補助が実用レベルに達し、オフィスや開発現場での利用が加速する。
一方、聯合東海XRS302ワークステーションやKH-40000シリーズを搭載したサーバーは、大規模AIモデルの処理を可能にし、企業向けのAI推論環境を強化する。Zhaoxinは、AI推論の低遅延化や省電力化を重視した最適化を進めており、国内市場向けの競争力をさらに高めている。
ただし、メーカー公表の性能データは特定の環境で最適化されている可能性があり、実際のパフォーマンスには差が出る可能性もある。今後の独立したベンチマーク結果に注目が集まる。
クラウド依存から脱却するローカルAIの進化

ZhaoxinがDeepSeek-R1をCPUラインアップ全体に展開したことで、AIの運用環境に新たな選択肢が生まれた。従来、AIの大規模モデルはクラウド上で動作するのが一般的であったが、今回の展開によりローカル環境でも高度なAIタスクを実行できる可能性が広がる。
KaiXian KX-7000シリーズを搭載したデスクトップPCでは、AIモデルをローカルに展開することで、WPS OfficeやVSCodeといったツールとの統合がスムーズに行える。これにより、ネットワーク接続の影響を受けずに、AIを活用した文書作成やプログラミング支援が可能となる。
さらに、聯合東海XRS302ワークステーションやKH-40000シリーズのサーバーでは、より大規模なAI推論が実現し、特にデータセンターやエンタープライズ向けのAIアプリケーションでの活用が期待される。
しかし、ローカルAIの運用には課題もある。AIモデルのローカル推論には高性能なハードウェアが必要となるため、エンドユーザーがこの環境を手軽に構築できるかどうかは慎重に見極める必要がある。
特に、DeepSeek-R1の最大671Bモデルの運用には膨大な計算リソースが求められ、現状では主にサーバー用途に限られる可能性が高い。それでも、クラウドに依存せずにAIを活用できる選択肢が増えることは、AIの利用スタイルを大きく変える要因となるだろう。
国産CPUとGPUの組み合わせが示す中国のAIインフラ強化
ZhaoxinのCPUは、国産のGPUアクセラレーターと完全な互換性を持つことが強調されている。この点は、中国国内のAIインフラ整備という観点からも重要な意味を持つ。特に、海外製半導体への依存を減らす動きが進む中で、Zhaoxinが国産GPUとの組み合わせを前提としたシステムを提供する意義は大きい。
聯合東海XRS302ワークステーションでは、4基の国産GPUアクセラレーターを搭載し、DeepSeek-R1-32BクラスのAI推論を処理できる環境が整えられている。このアプローチは、中国国内のハードウェアとソフトウェアの統合を進めるものであり、将来的にはより大規模なAIアプリケーションの自給自足が可能になる可能性がある。
また、KH-40000/32を搭載したサーバーでは、国産アクセラレーターと組み合わせることで、70B規模のAIモデルの運用も視野に入っている。
とはいえ、現時点では中国国内の半導体業界がハイエンドなAI市場でどこまで競争力を持てるかは未知数である。ZhaoxinのCPUはx86互換であるものの、競合他社の最新プロセッサと比較した場合の処理性能や電力効率には慎重な評価が必要となる。
また、国産GPUアクセラレーターとの組み合わせに関しても、実際のAIタスクにおけるパフォーマンスや最適化の進展が今後のカギを握るだろう。
ベンチマークと実運用のギャップ 実際の性能評価に注目
Zhaoxinが公表している情報によれば、同社のCPUはDeepSeek-R1の全モデルをサポートし、特に最大671Bのモデルに関しては、外部アクセラレーターなしでの推論も可能であるという。しかし、こうした発表と実際の使用感にはギャップが生じる可能性がある。
メーカーが提供するベンチマーク結果は、特定の最適化された環境で測定されたものであり、実際の使用環境とは異なる可能性が高い。
特に、DeepSeek-R1のような大規模言語モデルは、メモリ帯域幅やキャッシュ構造、I/O性能などに大きく依存するため、CPU単体の性能だけでなく、システム全体のチューニングが重要になる。そのため、ZhaoxinのCPUがどこまで安定した推論性能を発揮できるのか、独立したベンチマークテストの結果が待たれる。
また、ローカルAIを活用する場合、ハードウェアの制約以外にもソフトウェア側の最適化が求められる。特に、x86ベースのDeepSeek-R1モデルがどれほど効率的に動作するのかは、今後のファームウェアやソフトウェアアップデートの影響を受けるだろう。
こうした点を考慮すると、Zhaoxinの今回の発表は大きな一歩ではあるものの、実際の運用でどこまで期待通りの結果が得られるのかについては慎重な見極めが必要となる。
Source:NotebookCheck