台湾積体電路製造(TSMC)は、アリゾナ州で建設中の3nmチップ製造工場の稼働開始を、当初予定の2028年から2027年に前倒しする計画を進めていると報じられている。この動きの背景には、トランプ政権が台湾製半導体に最大100%の関税を課す可能性があり、TSMCは米国内生産によって関税の影響を回避しようとしているとみられる。

しかし、2027年の稼働開始が、NVIDIAやAMDの次世代GPUの製造・供給に間に合うかは不透明であり、ユーザーにとっては価格や入手性に影響を及ぼす可能性がある。

TSMCの3nm工場がもたらす技術的な影響とは

TSMCのアリゾナ州における3nm工場稼働は、半導体製造の技術的な転換点となる可能性がある。現在、TSMCは5nmプロセス(N4を含む)を用いた製造を行っており、これがNVIDIAの最新RTX 50シリーズやAMDのRDNA 4世代のGPUに採用されている。

一方、次世代の3nmプロセス(N3)は、より高密度なトランジスタ配置と省電力化を実現し、AIワークロードや高負荷のゲーミングに最適化されたパフォーマンス向上が期待されている。

N3プロセスでは、ファウンドリとしての生産効率がカギとなる。特に、新しい製造プロセスでは歩留まり(良品率)が課題となるため、アリゾナ工場の稼働初期にどの程度の良品率を確保できるかが重要となる。

TSMCは台湾での3nm量産をすでに開始しており、技術的なノウハウをアメリカの工場に移転することで、立ち上げの遅延を最小限に抑える狙いがある。しかし、完全な安定稼働には数年を要する可能性がある。

加えて、TSMCが3nmノードをどの顧客に優先的に提供するかも注目されるポイントだ。NVIDIAやAMDだけでなく、AppleやIntelもTSMCの3nmプロセスを活用する予定であり、競争が激化する。特に、AppleはこれまでTSMCの最先端プロセスを優先的に確保してきたため、アリゾナ工場がどの企業向けの製造を最初に手がけるかによって、GPU市場の動向が変化する可能性がある。

関税回避のための生産シフトと市場への影響

TSMCがアメリカ国内で3nmチップの生産を前倒しする背景には、関税回避という大きな要因がある。トランプ前大統領は、台湾製の半導体に最大100%の関税を課す可能性を示唆しており、これが現実となれば、台湾からの輸入に依存する企業にとってコスト増が避けられない状況となる。

特に、NVIDIAやAMDのGPUは、ほぼすべてTSMCで製造されているため、この関税が適用された場合、価格が大幅に上昇する可能性がある。

そのため、TSMCはアメリカ国内での生産を強化することで、関税の影響を最小限に抑えようとしている。しかし、すべての製造工程をアメリカ国内で完結させることは容易ではなく、パッケージングやテストの工程は依然として台湾や他の地域で行われることが多い。これにより、関税が適用されるかどうかの判断が複雑になり、最終的なコストにどの程度影響を及ぼすかはまだ不透明だ。

一方で、アメリカ国内での半導体生産拡大は、長期的にはGPU市場の安定につながる可能性がある。現状では、台湾や韓国に半導体生産が集中しているため、地政学的リスクによる供給不安が懸念されている。アリゾナ工場の稼働が順調に進めば、NVIDIAやAMDの製品供給がより安定し、結果としてユーザーにとっても価格や入手性が改善される可能性がある。

次世代GPUの発売スケジュールはどうなるのか

TSMCの3nm工場の稼働時期は、次世代GPUの発売スケジュールにも影響を与える。NVIDIAは現在、「Rubin」というコードネームでRTX 50シリーズの後継モデルを開発中とされており、2025年~2026年頃にリリースされる可能性が高い。また、AMDも「UDNA」アーキテクチャを採用した新型GPUの開発を進めているとみられる。

これらの次世代GPUが3nmプロセスを採用する場合、TSMCのアリゾナ工場が稼働する2027年に間に合うかが重要なポイントとなる。しかし、新しい工場がすぐに大量生産できるとは限らず、GPUメーカーが台湾の工場とアメリカの工場のどちらを選択するかによって、発売スケジュールは変動する可能性がある。

また、GPUのリリースサイクルにも影響を及ぼす可能性がある。通常、NVIDIAやAMDは約2年ごとに新しいアーキテクチャを発表しているが、関税や生産の遅れを考慮し、新型GPUの投入時期を調整する可能性がある。仮に関税が実施された場合、NVIDIAやAMDは台湾での生産を減らし、アリゾナ工場の稼働を待って新型GPUをリリースする選択肢も考えられる。

さらに、GPU市場における競争環境も変化する可能性がある。もしNVIDIAやAMDがアメリカ生産の遅れを考慮してリリースを遅らせた場合、IntelのArc GPUシリーズや、中国企業によるGPU開発が市場シェアを拡大する可能性もある。TSMCのアメリカ工場が予定通り稼働するか、そしてGPUメーカーがどのような戦略を取るかによって、次世代GPUの動向は大きく左右されることになる。

Source:PC Gamer