昨年11月、TSMCは米国政府の要請に応じ、中国向けのAIチップ出荷を停止した。そして2025年2月、新たな規制により中国企業はAIトレーニング用の高性能チップをさらに入手しにくくなっている。

1月31日施行の新ルールでは、TSMCは16nm以下のプロセスノードを使用したチップの製造を中国のファブレス企業から受注できなくなった。ただし、米国政府の認可を受けた第三者パッケージング業者を利用する場合は例外とされる。

米国の最新制裁措置では、中国企業がTSMC製チップを受け取るには、米国ホワイトリストに登録されたOSAT業者を経由しなければならない。さらに、16nmプロセス以下かつ300億個以上のトランジスタを搭載したチップの輸出には、米国商務省のライセンスが必要となる。こうした規制は、中国のAI開発企業にとって大きな制約となる可能性がある。

特に注目されるのは、中国のAI企業DeepSeekがNvidia H800 GPUを用いて開発した「DeepSeek-R1」の事例だ。H800 GPUは4nmプロセスで製造され、800億個のトランジスタを搭載。米国の輸出規制を超える性能を持つため、本来は輸出許可が必要だった。しかし、DeepSeekがどのように入手したのか不明な点が多く、FBIとホワイトハウスが調査を進めている。

今回のTSMCの規制は、米国の制裁措置よりも厳しく、中国のAI開発への影響はさらに大きくなる可能性がある。今後、AppleやAMDなどの企業がライセンスを取得できるか、また中国企業が代替チップを確保できるかが注目される。

米国の規制強化で中国のAI開発は停滞するのか

米国政府が主導する半導体輸出規制の影響で、中国のAI開発環境は大きく変化している。特にTSMCによる最新の出荷制限は、中国企業にとって深刻な課題となる可能性がある。中国では、最先端のAIモデル開発には高度なGPUが不可欠だが、今回の規制により、それらの調達ルートが大幅に制限されることになった。

AI開発には、大規模なデータ処理を可能にする強力なGPUが必要だが、現在の規制ではNvidia H800のような高性能チップの輸入が困難になりつつある。DeepSeek-R1の事例のように、中国企業は代替手段を模索しているが、米国政府の監視が強まる中、今後の入手経路が限られる可能性が高い。

一方で、中国政府は国内の半導体産業の自給自足を進めており、独自のGPU開発にも力を入れている。Huaweiをはじめとする企業は、AI向けのチップを開発しており、米国の規制に対抗する動きを見せている。

しかし、TSMCのような高度な製造技術を持つ企業が国内に存在しないため、最先端チップの量産には時間を要する。この状況が続けば、中国のAI開発の進展は一時的に停滞する可能性があるだろう。

TSMCの新規制は米国の措置より厳しいのか

TSMCの最新規制は、米国政府の制裁措置を上回るほど厳格なものになりつつある。米国はAI向けGPUの中国輸出を制限しているが、TSMCはさらに踏み込んで16nm以下のプロセスノードを使用したチップの製造自体を拒否する方針を採っている。この制限は、単に米国政府の圧力によるものではなく、TSMC自身の経営判断も影響している可能性がある。

TSMCは世界最大の半導体受託製造企業であり、多くのハイエンドチップの生産を担っている。そのため、米国の規制に準拠するだけでなく、さらなる制約を設けることで、米国との関係を強固にしようとしているとも考えられる。

特に、NvidiaやAMD、Appleなどの主要顧客は、TSMCにとって重要な取引先であり、中国市場への依存度を下げることで、米国政府からの圧力を回避しようとしている可能性がある。

また、台湾という地理的要因も影響している。台湾は地政学的に中国との緊張関係を抱えており、TSMCが中国向けのチップ供給を制限することは、政治的な側面でも一定の意味を持つ。こうした背景を踏まえると、TSMCの規制は単なる米国の要請に応じたものではなく、自社の経営戦略や国際関係を考慮した結果とも言えるだろう。

中国の半導体産業は独自路線へ進むのか

米国とTSMCの規制強化を受け、中国は自国の半導体産業を強化する方向へ進んでいる。特にHuaweiやSMIC(中芯国際集成電路製造)といった企業は、最先端プロセス技術の開発を急いでおり、7nmクラスのチップ製造に成功したとの報道もある。

しかし、現在の技術水準ではTSMCやSamsungの5nm以下のプロセスに匹敵する製品を量産するのは難しく、特にAI向けの高性能チップ分野では依然として遅れをとっている。

中国政府は半導体技術の自給自足を目指し、莫大な投資を行っているが、製造装置やEUV(極端紫外線リソグラフィー)技術の不足が大きな障壁となっている。これまで、最先端の半導体製造にはASML(オランダ)のEUV装置が不可欠だったが、米国の規制によって中国企業はこれを入手できなくなっている。そのため、現在の中国の半導体産業は、既存技術の改良による独自路線を模索している段階だ。

一方で、過去の事例を見ると、規制がかかるたびに中国企業は独自の代替技術を開発し、徐々に制裁の影響を克服してきた。今回のTSMCの制限も、中国企業が新たな製造技術を生み出す契機となる可能性はある。短期的には影響を受けるが、長期的には中国が独自の半導体エコシステムを構築し、米国主導の半導体市場から一定の距離を取る動きが加速するかもしれない。

Source:PhoneArena