System76が手掛けた「Thelio Astra」が、128コアのAmpere Altra Max CPUを搭載し、Cinebench 2024で5,003点という圧倒的なスコアを記録した。このスコアはHWBotに登録された128コアシステムの従来記録を更新するものであり、同PCは「世界最速のArmデスクトップ」として注目を集めている。価格は3,299ドルからで、最高スペックでは25,000ドル近くに達する。
Jeff Geerlingによる詳細なテストでは、計算能力やグラフィック性能が特筆され、特にLinux環境でのパフォーマンスが際立っている。しかし、PCIe 4.0やDDR4に制限される点や、シングルコア性能の改善余地も指摘された。System76はこの製品を主に自動車ソフトウェア開発者向けに位置付けており、さらなる性能向上が期待されている。
世界最速のArm PCが示す産業界への影響
Thelio Astraは、その圧倒的な性能を武器に、単なる高性能デスクトップPCの枠を超えた可能性を示している。特に自動車産業において、ソフトウェアの迅速なプロトタイピングが求められる場面で活躍が期待されている。128コアのAmpere Altra Max CPUは、高負荷な計算処理を短時間で行うことができ、自律走行システムやAIトレーニングといった高度な用途に対応できる性能を持つ。
これにより、企業が複雑な計算やシミュレーションを迅速に進めることで、製品開発サイクルの短縮が可能となる。一方で、価格が3,299ドルからと一般的な消費者には手の届きにくい設定であるため、ターゲット市場が高度な技術を必要とする特定の業界に限定されている。System76がThelio Astraを「業界特化型ワークステーション」として設計した意図は明確であり、製品の市場適応性も評価されるべきである。
Thelio Astraの成功が示唆するのは、Armアーキテクチャの高性能化とその応用範囲の拡大である。この動向は、他の業界にも波及し、より多くの分野でArmベースのシステムが導入される可能性を示している。Ampere Altra Maxが提供する未来の可能性は、まだ序章に過ぎないのかもしれない。
Linuxとの相性が示すソフトウェア最適化の可能性
Thelio Astraは、System76がデフォルトでLinux環境を搭載することによって、ハードウェアとソフトウェアの最適な調和を実現している。この選択は偶然ではなく、NvidiaのWindows on Arm用ドライバが未対応であるという現実を考慮したものだ。これにより、ユーザーはLinux環境で最大限の性能を引き出せる一方、Windows環境における課題が浮き彫りとなっている。
Linuxは、Ampere Altra Maxのような多コア構成を最大限に活用する設計がされており、特にCinebenchやBlenderのようなプロフェッショナルなアプリケーションで効果的である。一方で、Nvidia GPUを活用したRTXアクセラレーションがLinuxでは適切に機能する一方で、ユーザーがWindowsを利用する場合は選択肢が限定される。この点で、System76がLinuxを選択した戦略は理にかなっていると言える。
この事実から、ArmベースのPCが将来的に多様なOSで利用可能となるためには、ソフトウェア開発者とハードウェアメーカーが協力する必要性があることがわかる。Geerlingが指摘する課題を克服するためには、技術的な連携が進むことで、新たな可能性が広がると考えられる。
高性能の裏にある技術的課題と改善の余地
Thelio Astraは圧倒的な性能を誇るが、Geerlingのテストではいくつかの技術的課題も明らかになった。たとえば、PCIe 4.0とDDR4に限定されているため、最新技術とのギャップが感じられる場面がある。さらに、シングルコア性能が限定的で、特にCinebench 2024ではThreadripper 1950Xをわずかに上回る程度であった。
また、ハードウェア設計においても改善の余地がある。PCIブラケットのガタつきや前面I/Oの欠如など、ユーザビリティを考慮した設計が不足していると指摘されている。これらの課題は、高性能を実現する一方で、実用性や使いやすさを犠牲にしている可能性を示唆している。
このような課題を踏まえると、今後のモデルでは、最新のPCIe 5.0やDDR5への対応、さらにユーザーフレンドリーな設計が求められるであろう。Thelio Astraの性能は疑いの余地がないが、それを最大限活用するためには、技術的改良と市場の期待に応える進化が必要である。これが実現すれば、Arm PCの新たな可能性を切り開く一台となるだろう。