AMDは2024年7月にRyzen AI 9 HX PRO 375を発表した。Strix Pointアーキテクチャを採用し、12コア構成(Zen 5×4 + Zen 5c×8)で最大5.1GHzの動作クロックを実現。内蔵GPUにはRDNA 3.5ベースのRadeon 890M(16CU)を搭載し、GTX 1650 Laptop相当のグラフィック性能を持つ。
AI処理向けに55TOPSのXDNA 2 NPUを内蔵し、機械学習やAIワークロードの高速化が可能。また、PCIe 4やUSB 4、LPDDR5x-7500 RAMをサポートするなど、最新のインターフェースにも対応。標準TDPは28Wだが、最大54Wまで引き上げ可能で、消費電力と性能のバランスを調整できる。
非PRO版のHX 375と比較し、AMD Secure Processorの搭載やセキュリティ機能の強化が特徴。性能面ではHX 370とほぼ同等と見られ、Intel Core i5-13500HXやRyzen 7 7745HXに匹敵する水準。軽めのAAAタイトルなら1080p低設定でのプレイも可能で、AI処理性能の向上により、クリエイティブ用途にも適したプロセッサとなっている。
Zen 5とZen 5cのハイブリッド構成がもたらす性能の違い

Ryzen AI 9 HX PRO 375は、Zen 5とZen 5cの2種類のCPUコアを組み合わせた12コア構成を採用している。Zen 5コアは最大5.1GHzで動作し、キャッシュ容量も大きいため高負荷な処理を得意とする。一方、Zen 5cコアは最大3.3GHzに制限され、キャッシュも削減されているが、省電力性能に優れる。
この組み合わせにより、シングルスレッド性能とマルチスレッド性能のバランスを取りながら、効率的な電力管理を実現している。
HX PRO 375のアーキテクチャは、従来のZen 4と比較して約16%のIPC向上を果たしており、分岐予測の最適化やメモリ帯域幅の改善によって、パフォーマンスの向上が図られている。これにより、シングルスレッド性能ではIntel Core i5-13500HXと同等、マルチスレッド性能ではRyzen 7 7745HXに近い水準を実現している。
ただし、Zen 5cコアの動作クロックの低さが影響し、すべてのアプリケーションで均一なパフォーマンスが発揮されるわけではない。
この構成は特に、軽量なタスクでは省電力性を活かしつつ、必要に応じて高クロックのZen 5コアが作動することで、高い応答性を維持できるのが特徴である。ノートPCでの実際の使用では、電源プランや冷却性能に応じてZen 5cコアの活用頻度が変わり、省電力モードでは長時間のバッテリー駆動が可能となるだろう。一方で、最大54WのTDP設定時には、より高いパフォーマンスを引き出すことが可能だ。
Radeon 890Mがもたらす内蔵グラフィックスの進化
HX PRO 375に搭載されているRadeon 890Mは、RDNA 3.5アーキテクチャを採用した16CU(1024シェーダー)構成の統合GPUであり、iGPUとしては非常に高い性能を持つ。最大2,900MHzで動作し、ベンチマークではIntel Arc 8に匹敵する結果を示し、一部のタイトルではRTX 2050 Laptopに迫るパフォーマンスを発揮する。
一般的な用途ではGTX 1650 Laptopクラスの性能と考えられ、AAAタイトルでも1080pの低設定で快適に動作するケースが多い。
また、Radeon 890Mは動画再生機能にも優れており、AVC、HEVC、VP9、AV1といった主要コーデックのエンコード・デコードをサポートしている。ただし、IntelのLunar Lakeシリーズが対応する最新のVVCコーデックには対応していないため、将来的な動画フォーマットの変化において若干の不利が生じる可能性はある。それでも、現状の動画コンテンツを楽しむには十分な機能を備えている。
内蔵グラフィックスの進化により、これまでdGPUが必要とされていた用途の一部がiGPUでまかなえるようになってきた。特にモバイル環境では、消費電力と発熱の面で大きなメリットがあるため、ゲーミングノートPCのエントリーモデルやクリエイティブ用途の軽量マシンとしても適した選択肢となるだろう。
PCIe 4.0のサポートにより、外部GPUとの接続もスムーズで、Thunderbolt互換のUSB 4を活用することで、eGPUとの組み合わせも可能である。
AI処理に特化したXDNA 2の実力
HX PRO 375には、AMDの最新AIアクセラレーションエンジンであるXDNA 2 NPUが搭載されている。前世代のXDNAと比較して、最大55TOPSの処理性能を発揮し、機械学習やAI関連タスクの高速処理が可能となっている。AIワークロードが求められるシナリオとしては、画像・動画編集、ノイズキャンセリング、リアルタイム翻訳、AIアシスト機能の強化などが挙げられる。
AIプロセッサの進化により、従来CPUやGPUに依存していたAI処理を専用ユニットでこなせるようになり、電力効率の向上にも貢献している。特にノートPCでは、バッテリー駆動時のAIタスク処理能力が向上することで、持続時間の向上が期待できる。加えて、AIエンジンの強化は、次世代のAI活用ソフトウェアやOSレベルでの最適化にも貢献し、今後のPC環境の変化にも対応しやすい基盤となる。
一方で、現時点ではAIアクセラレーションを最大限に活用できるアプリケーションは限られている。Windows 11のCopilotやAdobeのAI機能など、特定のソフトウェアではメリットを享受できるものの、一般的なユーザーが日常的に体感できるレベルにはまだ達していない。しかし、今後のソフトウェアアップデートやAI活用の広がりに伴い、XDNA 2 NPUの真価が発揮される場面は増えていくと考えられる。
Source:NotebookCheck