欧州連合(EU)が新たに導入する包装材規則(Packaging and Packaging Waste Regulation、PPWR)に関して、CPUの標準クーラーが廃止されるとの誤解が広がっている。しかし、PPWRの原文を精査すると、CPUクーラーは製品の機能に不可欠な要素とみなされ、包装材の過剰規制の対象外であることが明らかである。したがって、標準クーラーの廃止が求められることはないと考えられる。

一部の高性能モデルやOEM向け製品では従来からクーラーが付属していないが、これは特定の市場ニーズに応じたものであり、今回の規制変更とは直接関係がない。過去には、インテルがCore i9シリーズの十二面体パッケージを廃止し、AMDもRyzen Threadripperの大型パッケージを見直した事例がある。

これらは輸送効率や環境負荷を考慮した結果であり、標準クーラーの有無とは無関係である。現行の標準クーラーは、設計が大幅に改良され、特に小型PC(SFF)ビルドなどで十分な性能を発揮している。したがって、標準クーラーの完全廃止はユーザーや環境にとって必ずしも最良の選択とはいえない。

新たなEUの包装材規則は、過剰包装の削減を目的としており、製品の機能に不可欠な要素であるCPUクーラーはその対象外とされている。したがって、標準クーラーの廃止が求められることはなく、ユーザーはこれまで通り安心して製品を使用できる。

EUの包装規制はPCパーツの梱包をどう変えるのか

EUの新しい包装規制「PPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation)」は、PCパーツの梱包にどのような影響を与えるのか。今回の規制は、過剰包装の削減と環境負荷の軽減を目的としており、インテルやAMDがこれまで採用してきた派手なパッケージデザインにも影響を及ぼす可能性がある。

従来、ハイエンドCPUのパッケージは、製品のプレミアム感を演出するために大きなデザインが採用されてきた。たとえば、インテルのCore i9の十二面体パッケージや、AMDのRyzen Threadripperの大型ボックスがその代表例だ。

しかし、こうしたパッケージは輸送効率が悪く、プラスチックや発泡スチロールの使用量が多いため、環境負荷が問題視されていた。今回の規制によって、こうした派手なデザインの廃止がさらに進むと考えられる。

また、今回の規制では、製品の機能に直接関係しない包装材の削減が求められている。CPUそのものは小型でありながら、箱の内部に無駄な空間が多いという指摘は以前からあった。今後、CPUに限らず、GPUやマザーボードなどのPCパーツ全般においても、よりコンパクトで環境に配慮したパッケージが主流となる可能性がある。

ただし、標準クーラーの廃止が義務付けられるわけではないため、ユーザーの利便性が大きく損なわれることはなさそうだ。

CPUメーカーは標準クーラーをどう位置づけるべきか

CPUメーカーにとって、標準クーラーの提供はコスト面と利便性のバランスが求められる課題となっている。過去には冷却性能が不十分と批判されたこともあるが、近年では標準クーラーの性能が向上し、エントリー向けや省スペースPCにおいては十分な冷却能力を発揮している。

インテルとAMDは、モデルごとに標準クーラーの付属有無を決めている。インテルの「Kシリーズ」やAMDの「Xシリーズ」は、オーバークロックを前提とした高性能モデルであり、これらには標準クーラーが付属しない。これは、ハイエンドユーザーがより高性能なサードパーティ製クーラーを使用する傾向があるためだ。一方、通常のRyzenやCore i5以下のCPUには、純正クーラーが同梱されていることが多い。

環境負荷や輸送コストの観点からは、標準クーラーの完全廃止も選択肢の一つとなる。しかし、その場合はユーザーが別途クーラーを購入する必要があり、コストが増加するほか、互換性の問題も生じる可能性がある。特に初心者にとっては、適切なクーラーを選択するハードルが上がることになるため、完全な撤廃は慎重に判断されるべきだろう。

今後のPCパーツ市場における環境対策の行方

PCパーツ市場では、今回のEU規制を契機に、環境対策が一層重視される流れが強まりそうだ。パッケージの簡素化だけでなく、素材の変更や再利用可能な包装の採用が進む可能性もある。すでに一部メーカーは、リサイクル素材を活用したパッケージを導入し始めており、こうした動きは今後さらに広がるだろう。

また、CPUクーラーに関しても、より環境負荷の少ない設計が求められるかもしれない。たとえば、純正クーラーの素材やファンの効率化を図り、より低消費電力かつ静音性の高いモデルが増える可能性がある。また、一部のメーカーでは、モジュール式の冷却システムを採用し、ユーザーが必要なパーツのみを交換できるような設計を模索している。

このように、環境対策はPCパーツ業界全体の課題となっており、今回のEU規制はその一環に過ぎない。今後は、包装規制だけでなく、製品のエネルギー効率やリサイクル性の向上など、より幅広い視点での対応が求められていくことになるだろう。

Source:Tom’s Hardware