中国のAI研究機関「DeepSeek」が、自社のAIモデルに中国製のGPUを活用する可能性が報じられている。これまでDeepSeekはNVIDIAのGPUを使用してAI開発を行ってきたが、アメリカの輸出規制の影響を受ける中、中国国内の半導体技術を活かす方向にシフトする可能性が指摘されている。

特に、NVIDIAのGPUプログラミング技術を基に、中国製GPUに最適化を施すことで、競争力を維持しようとする動きがあるようだ。

DeepSeekが採用している「Parallel Thread Execution(PTX)」は、GPUを細かく制御できるプログラミング技術であり、NVIDIAの「CUDA」よりも低レベルなプログラミングが可能だ。

このPTXの専門知識を持つことで、DeepSeekは低性能なハードウェアでも最大限の性能を引き出す手法を開発している。この技術が中国製GPUにも適用できれば、アメリカ製GPUへの依存を減らし、AI開発のコストを抑えつつ、パフォーマンスを維持することが可能となる。

現在、中国の半導体メーカーであるSMICは、アメリカやオランダからの先端技術の供給制限を受けており、最新の5ナノメートル以下の製造プロセスを使用できないとされる。

しかし、DeepSeekがPTXを活用することで、こうした制約を克服し、中国製GPUのパフォーマンスを最適化する可能性がある。報道によれば、DeepSeekはすでにNVIDIAのPTX技術を分析し、その知見を中国製チップにも適用しようとしているとのことだ。

中国のAI業界にとって、ハードウェアの制約は大きな課題であり、DeepSeekの取り組みが成功すれば、国内のGPU開発が加速する可能性もある。ただし、現在の中国製GPUの性能はNVIDIAの最新モデル「Blackwell」シリーズには及ばず、どの程度の最適化が可能かは未知数だ。今後のDeepSeekの動向が、中国のAI開発の方向性を大きく左右することになりそうだ。

DeepSeekが採用するPTXとは何か GPUの性能を引き出す仕組み

DeepSeekが注目を集める要因の一つに「Parallel Thread Execution(PTX)」の活用がある。PTXはNVIDIAが提供する低レベルなプログラミング言語であり、CUDAと比較してより細かいGPU制御が可能になる。

CUDAが主に開発者向けの高レベルAPIであるのに対し、PTXはより直接的にGPUの動作を制御するためのアセンブリ言語に近い仕様を持つ。この特性により、エンジニアは個々の演算ユニットに対して最適な命令を組み込むことができ、ハードウェアの限界に迫る性能を引き出せる。

DeepSeekがPTXを活用する理由として、アメリカの対中輸出規制の影響があると考えられる。中国のAI開発者にとって、ハイエンドなNVIDIA製GPUの供給が制限されている現状では、手持ちのハードウェアを最大限に活用することが不可欠だ。

PTXを利用することで、NVIDIAの最新GPUを使用しなくても、ある程度のパフォーマンスを確保できる可能性がある。特に、DeepSeekのエンジニアはNVIDIA製チップに依存しない最適化技術を研究しているとされており、この知見を中国製GPUにも応用する試みが進められている。

しかし、PTXの習得は容易ではなく、この言語を扱えるエンジニアの数は限られている。CUDAと比べて開発効率が低く、細かいハードウェア制御が必要なため、高度な技術力が求められる。

さらに、PTXはNVIDIAのハードウェア向けに設計されているため、中国製GPUにそのまま適用できるかは不透明だ。それでも、DeepSeekがこの技術を活用しているという事実は、中国のAI業界にとって重要な示唆を与えるものとなる。

中国製GPUの現状とDeepSeekが直面する課題

DeepSeekが中国製GPUへの移行を視野に入れている背景には、中国国内の半導体技術の発展がある。しかし、中国の主要な半導体メーカーであるSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)は、7ナノメートル以下の製造プロセスに制限を受けており、最新のNVIDIA製GPUと比較すると性能面で大きな差があるのが現状だ。

さらに、オランダのASML社が製造する最先端のEUVリソグラフィ装置を輸入できないため、中国国内の半導体技術の進歩は一部の分野で停滞している。

DeepSeekが中国製GPUを活用しようとする場合、最大の課題は性能の差をどう埋めるかにある。NVIDIAのHopper H800や最新のBlackwellシリーズと比較すると、中国製GPUは計算能力や電力効率で大きく劣るとされる。特に、AIモデルのトレーニングには高い演算能力が求められるため、性能の低いハードウェアでは学習時間が長くなり、コスト面でも不利になる可能性がある。

それにもかかわらず、DeepSeekはPTXの専門知識を活用することで、中国製GPUのパフォーマンスを向上させる可能性がある。報道によると、DeepSeekのエンジニアはNVIDIAのチップのドライバ解析を行い、中国製GPUにも適用できる最適化技術を開発しているという。

このアプローチが成功すれば、DeepSeekは中国製GPUの制約を克服し、アメリカ製GPUに依存しないAI開発を進めることが可能になるかもしれない。

一方で、中国製GPUの進化が追いつくには時間がかかると見られている。AIチップの競争は激化しており、NVIDIAだけでなく、AMDやGoogleなども独自のAIアクセラレータを開発している。DeepSeekの取り組みがどの程度実用性を持つのか、今後の動向が注目される。

DeepSeekの技術戦略が示す中国AI業界の未来

DeepSeekの試みは、単なる一企業の戦略にとどまらず、中国全体のAI技術発展に大きな影響を与える可能性がある。アメリカの輸出規制が強化される中、中国のAI企業は独自の半導体技術を確立する必要に迫られている。DeepSeekがPTXの活用によって、低性能なGPUでも最適化を行う技術を確立すれば、他の中国企業も同様の手法を採用する可能性がある。

また、中国政府はAI技術の自立を推進しており、国内の半導体産業に対して多額の投資を行っている。例えば、BaiduやHuaweiといった大手企業は、独自のAIチップを開発し、NVIDIA製GPUへの依存を減らそうとしている。DeepSeekの動きも、この流れの一環と見ることができ、中国のAI業界全体の発展に寄与する可能性がある。

しかし、技術的な課題は依然として多く、中国製GPUの性能がすぐにNVIDIAの最新モデルに匹敵することは難しいと考えられる。それでも、DeepSeekが進めるGPU最適化の研究は、中国のAI技術の進化を加速させる可能性があり、長期的には競争力を強化する要因となるかもしれない。

今後の焦点は、DeepSeekがどのようなGPU最適化技術を開発し、それをどの程度実用化できるかにある。もし中国製GPUの性能向上が進めば、中国のAI企業にとって大きな転換点となるかもしれない。DeepSeekの技術戦略が、中国のAI業界の未来をどのように変えるのか、今後も注目が集まる。

Source:Wccftech