AMDのCEOであるリサ・スー氏は、同社のInstinctアクセラレータが今後数年間で年間数百億ドル規模の収益を生み出すと予測している。一方、中国発のAIモデル「DeepSeek」が少ないGPUリソースで高いパフォーマンスを発揮できる可能性が指摘され、GPU市場に変化の兆しが見えつつある。しかし、スー氏はこの動向を「AIの普及を加速させるもの」と捉え、AMDの事業成長に影響はないと楽観視している。

同社の2024年第4四半期の業績は、AI向けGPUの好調な売上に支えられ、データセンター部門が前年比69%増と大幅に成長した。特に次世代MI355Xアクセラレータの投入時期を前倒しすることで、さらなる市場拡大を狙う姿勢を見せている。一方、ゲーム向けGPUや組み込み部門の売上は減少し、同社の成長戦略がAI領域に大きくシフトしていることが浮き彫りとなった。

また、クラウド企業がカスタムAI ASICの開発を進める中、スー氏は「多様なAIワークロードにはCPU、GPU、ASICすべてが必要」とし、GPUの優位性は揺るがないと強調した。しかし、AI向けハードウェアの進化は急速であり、今後の市場競争がどう展開するか注目される。

DeepSeekがもたらすAIコンピューティングの変化とGPUの役割

DeepSeekが示した新しいAIモデルの手法は、従来のGPU依存の計算環境に変革をもたらす可能性がある。従来のAI開発は、大規模なモデルを動かすために強力なGPUリソースを必要としてきた。しかし、DeepSeekは少ない計算資源で高い性能を発揮することで、企業がインフラ投資を抑えながらAIを活用できる可能性を示している。

この流れは、NvidiaやAMDといったGPUメーカーにとって脅威となるのか、それとも新たなビジネス機会を生むのかが注目されている。リサ・スー氏は、「効率的なモデルが増えることは市場拡大につながる」とし、GPUの需要が減少するわけではないと説明する。特に、推論向けの用途やクラウドAIサービスでは、最適化されたGPUリソースが依然として求められるだろう。

また、GPUとAI ASICの役割分担も明確化されつつある。AI ASICは特定用途に最適化された設計である一方、GPUは多様なモデルやアルゴリズムに対応できる柔軟性を持つ。DeepSeekの登場により、より効率的なGPU活用が求められる時代に突入したといえる。

次世代Instinct GPUの進化と市場の期待

AMDは、次世代AIアクセラレータとしてMI355Xを2025年中頃に投入する予定だ。このモデルは、従来のInstinct GPUよりも高い計算能力を持ち、特にAIトレーニングと推論の処理効率を向上させる。発表によれば、MI355XはNvidiaのB200アクセラレータと同等の計算性能を維持しつつ、メモリ容量を50%増加させる設計となっている。

加えて、AMDはさらに先の展開としてMI400シリーズを計画している。このシリーズでは、CDNA-Nextアーキテクチャを採用し、ネットワーキングとGPU、CPUを統合した「ラックスケール」設計が導入される予定だ。このアプローチは、特に大規模データセンター向けに最適化されており、AIモデルの大規模運用を前提としたものになっている。

一方で、競合の動きも活発化している。NvidiaはNVL72システムを発表し、大規模AI向けに最適化されたソリューションを提供する予定だ。また、Intelも「Jaguar Shores」GPUを発表し、同様のラックスケール設計に乗り出している。こうした競争環境の中で、AMDがどのようにシェアを拡大できるかが今後の焦点となる。

AI市場の成長とカスタムASICの影響

近年、GoogleやAmazonといったクラウド企業は、自社開発のカスタムAI ASICを積極的に導入している。GoogleのTPUやAmazonのTrainiumは、クラウドAIサービスに特化した設計を採用し、汎用GPUに比べて特定のAIタスクで高い効率を実現している。特に、AmazonはAnthropic向けに10万個以上のTrainium2アクセラレータを配備する計画を発表し、市場の注目を集めた。

しかし、リサ・スー氏は「AI市場は多様であり、すべてのワークロードに対応するにはCPU、GPU、ASIC、FPGAの組み合わせが必要」と強調する。つまり、特定用途向けのASICが増えても、すべてのAI処理をカバーすることはできず、GPUの需要は依然として高いという見方だ。

加えて、AIアルゴリズムの進化は止まらず、新たな手法が生まれるたびにハードウェアの要件も変化する。カスタムASICは特定用途に最適化されるが、アルゴリズムの変化に柔軟に対応できるGPUの価値は引き続き高いと考えられる。こうした市場環境の中で、AMDはGPUの汎用性を強みとしながら、データセンター向けの新たなアプローチを模索している。

Source:The Register