AMDの最新サーバープロセッサ「EPYC 9755」は、128コア256スレッドを誇る高性能な「Turin Classic」チップである。本記事では、このプロセッサが提供するSimultaneous Multi-Threading(SMT)の性能について、SMTを有効にした場合と無効にした場合の比較を行った。170を超えるベンチマーク結果から、EPYC 9755が高コア数でどのような利点をもたらすかを検証する。

AMD EPYC 9755の基本スペックと概要

AMD EPYC 9755は、128コア256スレッドという圧倒的なマルチスレッド性能を誇る「Turin Classic」シリーズのハイエンドプロセッサである。ベースクロックは2.7GHzで、ブーストクロック時には最大4.1GHzに達する。さらに、512MBのL3キャッシュと500WのTDPを備えており、データセンター向けに設計されたこのプロセッサは、膨大な計算処理能力を持つ。価格は1KUで12,984ドルに設定されており、最先端の技術を詰め込んだプロセッサとしては標準的な価格帯である。

EPYC 9755は、第5世代のZenアーキテクチャに基づいており、DDR5-6000メモリに対応する12チャンネルのメモリ構成が可能である。この高帯域幅メモリにより、大規模な並列処理やデータ転送が効率的に行える設計となっている。特に、データセンターやクラウドサービスにおける高負荷のワークロードに最適化されており、そのパフォーマンスは業界でも注目されている。

このプロセッサはシングルソケット構成でテストされ、64GBのSamsung ECC RDIMMを12枚使用した。これにより、大規模なワークロードでの信頼性と性能が保証されている。Ubuntu 24.04 LTSを使用し、標準のGCC 13.2コンパイラによって最適化された環境でベンチマークが行われた。この環境下でのテスト結果は、EPYC 9755が持つ潜在的な性能を最大限に引き出すために最適化されたものである。

SMT有効時と無効時の性能比較

AMD EPYC 9755のSMT(Simultaneous Multi-Threading)機能を有効にした場合と無効にした場合の性能比較は、特に高コア数のシステムにおいて重要な評価ポイントである。今回のテストでは、SMTを有効にして128コア256スレッド、無効にして128コア128スレッドで動作させ、それぞれのパフォーマンスを検証した。

結果として、特定のワークロードではSMTが大きな性能向上をもたらした。特にマルチスレッド対応のアプリケーションでは、SMTが有効な場合の方が高いスループットを示した。しかしながら、シングルスレッド性能やキャッシュに強く依存するワークロードでは、SMTを無効にした方がわずかながら高い性能を示す場合もあった。これは、スレッドごとのキャッシュ競合が原因であり、メモリアクセスが頻繁なタスクではSMTの効果が限定的であることが分かる。

また、SMTの有効無効による電力消費の違いも注目すべき点である。SMTを無効にした場合、消費電力が抑えられる傾向にあり、省電力を重視する環境では有効無効の切り替えが柔軟に行えることが利点となる。最適なパフォーマンスを引き出すためには、ワークロードの特性に応じたSMTの設定が求められる。

高スレッド数でのSMTの影響とその利点

EPYC 9755のように128コア256スレッドという超高スレッド数を持つプロセッサにおいて、SMTの影響は非常に大きい。特に、SMTが有効な場合、各コアが2つのスレッドを同時に実行することで、スレッド間のリソース効率が向上する。これにより、マルチタスク処理やスレッドごとの負荷分散が効果的に行われ、パフォーマンスが向上する。

特に、データベースのクエリ処理やビッグデータ解析など、並列処理が重要な役割を果たす分野では、SMTの恩恵を大きく受ける。多くのスレッドを同時に処理できることは、タスクごとの待ち時間を減少させ、スループットを最大化する要因となる。EPYC 9755が持つ豊富なスレッド数は、こうした用途において圧倒的なパフォーマンスを提供する。

一方で、スレッドごとのリソース消費が激しい場合や、メモリやキャッシュへの依存度が高い処理では、SMTがかえって性能を低下させる場合もある。このため、SMTを有効にすべきか否かは、特定のワークロードやアプリケーションに応じて判断する必要がある。だが、全体としては、EPYC 9755のような高スレッド数プロセッサにおけるSMTの利点は非常に大きい。

Linux環境でのテスト結果と省電力性能

Linux環境下で行われたテスト結果は、EPYC 9755の性能と省電力性能において興味深い示唆を与える。テストはUbuntu 24.04 LTS上で実施され、GCC 13.2を使用したコンパイル環境が用意された。この環境下で、EPYC 9755のSMT有効時と無効時の動作におけるパフォーマンスおよび消費電力が測定された。

SMTを有効にした場合、CPUはより多くのスレッドを同時に処理できるため、ピーク時の消費電力が増加する傾向が見られた。特に、マルチスレッド処理においては、より多くのリソースを活用するため、消費電力が高くなる。ただし、全体的な効率は向上しており、スループットが増加するため、処理時間の短縮とトータルのエネルギー効率には貢献している。

一方で、SMTを無効にすると消費電力は減少し、シングルスレッドやメモリアクセスに依存するタスクでは、無効化による性能低下がほとんど見られなかった。このことから、電力コストが重要なデータセンター環境では、負荷に応じてSMTを適切にオンオフすることで、電力消費とパフォーマンスのバランスを取ることが可能である。Linuxのsysfsインターフェースを用いることで、これらの設定は容易に行うことができる。