SalesforceとMicrosoftのAIを巡る競争が激しさを増している。SalesforceのCEO、マーク・ベニオフ氏は、最近のイベントや発言でMicrosoftのAI「Copilot」に対して痛烈な批判を展開し、両社の対立構図が浮き彫りとなった。この競争は、企業の生産性や顧客体験を向上させるAIツールの重要性が高まる中で、今後の市場動向を大きく左右するものとなりそうだ。
ベニオフ氏の批判に対し、Microsoftは反論を展開しつつ、AI機能の拡充を進めている。果たして、どちらのAIがビジネスの現場で優位に立つのか、注目が集まっている。
ベニオフ氏の批判が火をつけるSalesforceとMicrosoftのAI対決
SalesforceのCEO、マーク・ベニオフ氏がMicrosoftのAI「Copilot」に対する批判を強めている。彼は、Copilotを1990年代から2000年代にかけてMicrosoft Officeに搭載されていた「Clippy」に例え、MicrosoftのAIは進化していないと指摘した。さらに、彼はMicrosoft Copilotについて「科学実験のようなもので、顧客に価値を提供できていない」と辛辣なコメントを残している。この発言はSalesforceが自社のAIプラットフォーム「Einstein Copilot」を「Agentforce」として再ブランディングした直後に行われており、両社の対立が鮮明になった。
この批判に対して、Microsoftはベニオフ氏の指摘を一蹴し、Copilotのユーザー数と売上が大幅に増加していると反論した。MicrosoftのAI部門担当副社長であるジャレッド・スパターロ氏は、同製品の利用率が前四半期と比較して2倍に増えたと述べ、Copilotの実用性と価値を強調した。両社のトップがAI分野で火花を散らす中、ビジネスソリューションにおけるAI技術の競争がさらに激化している。
ベニオフ氏の批判は一時的なものではなく、今年8月から続いており、今後も対決姿勢を崩さないと見られる。この両社の対立は、ビジネスシーンにおけるAIの価値と方向性を示す象徴的な出来事となっている。
両社のAI戦略とシェア争いの現状
SalesforceとMicrosoftは、それぞれ異なるアプローチでAI市場を攻めている。SalesforceはAgentforceを中心に、営業、サービス、マーケティング、eコマースといった特定のビジネス領域に焦点を当てたAIツールを提供している。これらのツールはSalesforceのアプリケーションに統合されており、業界ごとのニーズに合わせて使いやすくカスタマイズされているのが強みである。
一方、MicrosoftのCopilotはオフィスワーカー向けの生産性向上ツールとして開発されている。ExcelやWordなどのMicrosoft 365アプリに組み込まれており、さまざまな業務に対応できる汎用性が特徴である。さらに、データソースを引き込み、ビジネスプロセスを自動化することが可能なAIアシスタント「Copilotエージェント」も導入され、より幅広い業務にAIを活用できるようになっている。
市場シェアの面では、Microsoftはすでに約85%の市場浸透率を誇る一方で、Salesforceは150,000以上の顧客を抱え、業界特化型のAIサービスで存在感を示している。両社の戦略は異なるが、AI技術をビジネスの現場でどのように最大限に活用するかという点では共通しており、今後のシェア争いはさらに激しさを増すだろう。
顧客の意見は?ビジネスの現場で求められるもの
SalesforceとMicrosoftの競争が激化する中、実際のビジネスの現場で求められているのは「相互運用性」と「実用性」である。多くの企業では、SalesforceとMicrosoft 365の両方を活用しているケースが多く、両社のAIツールがどのように連携するかが重要なポイントとなっている。例えば、Salesforceのプラットフォームを使って営業活動を行いながら、Microsoft 365で顧客とのメール連絡やタスク管理を行うケースは少なくない。
このような状況を踏まえ、PwCのIan Kahn氏は「顧客は企業間の対立よりも、自分たちの業務における効率化や成果を重視している」と指摘している。現場で働くユーザーにとって重要なのは、ツール同士がシームレスに連携し、効率的に業務を進められるかどうかである。そうした中で、どちらのAIツールがより現場に適した価値を提供できるかが、今後の評価に直結するだろう。
一方で、Valoirの創設者Rebecca Wettemann氏も、現実的には「両方のプラットフォームを使いこなす必要がある」と述べている。多くの企業がAzureなどのクラウドサービスを利用していることもあり、SalesforceとMicrosoftの共存関係が求められているのが実情である。
SalesforceとMicrosoft、それぞれのAIの強みと今後の展望
SalesforceとMicrosoftのAIは、それぞれ異なる強みを持ちながらも、ビジネス現場での活用を推進している。SalesforceのAgentforceは、営業やマーケティングといった業務に特化したAIであり、業種別のニーズに対応した柔軟な機能が魅力である。また、Slackと統合されていることで、ユーザーが対話型のエージェントを簡単に作成し、チームのコミュニケーションを強化できる点も大きな強みだ。
一方、MicrosoftのCopilotは生産性向上を主軸に、ExcelやWordといったオフィスツールでの作業効率化を実現するAI機能を持つ。ユーザーがノーコードでデータを取り込めるウィザードインターフェースを備えており、技術的な知識がなくても簡単にビジネスプロセスを自動化できる点が優れている。これは、オフィスワーカーにとって非常に有用なツールといえる。
今後の展望としては、Salesforceは業界特化型のAI戦略を強化し、より多くのビジネスプロセスにAIを取り入れることを目指している。一方、Microsoftは幅広い業務に対応できるCopilotエージェントの拡充により、オフィスワーク全体の生産性を底上げする方向性を示している。両社が持つ独自の強みを活かしつつ、ビジネス現場でのAI活用がどのように進化するか、今後も目が離せない。