デスクトップCPU市場でのインテルとAMDの競争は、数十年にわたり熾烈なものだった。2000年代半ば、インテルは「Tick-Tock」モデルにより革新的な製品を次々と送り出し、圧倒的な支配力を誇っていた。しかし、2010年代後半から状況が一変。

インテルの停滞とAMDの積極的な革新が交錯し、AMDは「Ryzen」シリーズで市場に強力な存在感を示し始めた。特に2017年のZenアーキテクチャ採用によるRyzenの登場は、低価格で多コア・多スレッド性能を実現し、ゲームユーザーやクリエイターに歓迎された。

2020年にはZen 3アーキテクチャのRyzen 5000シリーズがインテルを凌駕し、CPU市場に新たな流れを生み出した。現在、長年のライバルであるインテルとAMDが競合のArmアーキテクチャに対抗するための協力を発表し、新たな展開が注目されている。

インテルの「Tick-Tock」戦略の限界と停滞の影響

2000年代後半から2010年代前半にかけて、インテルは「Tick-Tock」戦略を通じて絶対的な支配力を築いてきた。この戦略は、新プロセス技術の導入とアーキテクチャの刷新を交互に行うことで性能向上を実現し、2009年のCore i7シリーズなど、当時のハイエンドCPU市場で高い評価を得た。

しかし、技術進化の加速が鈍化するとともに、Tick-Tockモデルの限界が顕著化した。特に、14nmプロセスの停滞がインテルにとっての足枷となり、次世代製品の開発が遅延し始めた。この結果、BroadwellやSkylakeなどのアーキテクチャはわずかな性能向上に留まり、ユーザーからの評価も低下した。

一方、AMDがRyzenの開発に着手していた2010年代中盤、インテルは現状維持に甘んじたことで革新性が失われ、市場シェアを維持するための「保守的な戦略」に転換したとも考えられる。この停滞期が長引くことで、インテルの革新力への信頼は揺らぎ始め、後のRyzenの登場によってその差が一層際立つこととなった。

AMDの「Zen」アーキテクチャが市場に与えたインパクト

インテルの停滞が続く中、AMDは2017年にZenアーキテクチャを採用したRyzenシリーズを発表した。これにより、AMDは低価格で高い多スレッド性能を提供し、多くのユーザーが性能面やコストパフォーマンスの優位性を評価し、Ryzenを支持する流れが生まれた。

特に、デスクトップ向けRyzen CPUはゲーミングやクリエイティブ用途で高いパフォーマンスを発揮し、ゲーマーやクリエイター層を中心にAMDファンが増加した。Threadripperシリーズの登場も、AMDがハイエンド市場でも強力な競争相手となることを証明する契機となった。

Ryzenの成功には、プロセスの刷新とアーキテクチャ改良の双方に積極的に取り組んだAMDの戦略が背景にあるといえる。技術革新を絶えず行うことで、インテル製品の独占状態を崩すとともに、ユーザーの選択肢を広げる役割を果たした。特に多コア・多スレッド構成に注力するアプローチは、近年のソフトウェアやゲームの動作環境に適しており、AMDが市場で再評価される理由となったのである。

インテルとAMDの協力が示すCPU市場の変革

2024年、長年の競合関係にあったインテルとAMDが、共通の脅威であるArmアーキテクチャに対抗するための協力体制を発表した。x86アーキテクチャの未来を共に模索し始めたこの提携は、これまでの競争時代から一転し、共通利益を追求する新たな段階へと移行するCPU市場の転機を象徴するものである。

この動きは、企業単独では対応が難しい状況を背景としていると考えられ、今後の市場構造において新たな競争軸を形成する可能性がある。

両社が協力することで、x86アーキテクチャの性能向上や消費電力の最適化が期待されると同時に、他のCPUメーカーに対する影響も大きいと予測される。また、近年の省エネルギー志向や環境問題への対応が企業にとって重要な課題であることも、今回の提携を促した要因といえるだろう。新しい競争環境の中で、インテルとAMDがどのように市場の未来を形作るのか、今後の展開が注目される。