AMDが再び市場での評価を引き下げられた。Melius ResearchのアナリストであるBen Reitzes氏は、AMDの格付けを「ホールド」に引き下げ、目標株価も160ドルから129ドルへと修正した。この判断は、DeepSeekの影響やMI300 GPUの売上見通しとは無関係であり、長期的なx86市場に対する懸念が主因とされている。
特にNVIDIAのArmベースCPU進出がAMDにとって新たな脅威となる可能性がある。Melius Researchは、これがAMDのサーバーおよびPC市場に影響を及ぼし、長期的にシェアを侵食すると警鐘を鳴らす。また、トランプ前大統領が台湾の半導体製品に対する関税を導入すれば、AMDは最も大きな打撃を受ける企業の一つとなると指摘されている。
一方で、AMDのサーバー向け最新CPU「Turin」は好調を維持しており、短期的な成長要因は残る。しかし、市場ではAI GPU競争力の低下も懸念されており、AMDは競争の激化と外部リスクの両面に直面している。
NVIDIAのArmベースCPU戦略がAMDに与える影響
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NVIDIAは長年にわたりGPU市場で圧倒的なシェアを誇ってきたが、近年はCPU市場への本格参入を進めている。特にArmベースのカスタムCPU開発が加速しており、データセンターやクラウド市場をターゲットにした戦略が明確になっている。Melius ResearchのBen Reitzes氏は、この動きがAMDのx86サーバー市場に深刻な影響を及ぼす可能性があると指摘する。
AMDのサーバー向けCPUはこれまでEPYCシリーズが市場で一定のシェアを獲得してきたが、Armベースの競合製品が増えることでその優位性が揺らぐ可能性がある。特に、NVIDIAが独自のカスタムCPUを用いることで、AIワークロード向けに最適化された統合プラットフォームを提供できれば、データセンター市場の流れが変わることも考えられる。
また、Armアーキテクチャは消費電力効率が高く、クラウドプロバイダーやハイパースケーラーにとって魅力的な選択肢となる。これにより、従来はx86が支配的だった市場にも変化が生じる可能性がある。
特にAmazon Web Services(AWS)がGravitonシリーズを採用しているように、クラウド事業者が独自のArmベースチップを開発する動きが加速すれば、AMDが獲得していた市場が縮小するリスクも否定できない。
さらに、NVIDIAはソフトウェアエコシステムの構築にも注力しており、GPUとの統合を進めることで他社にはない優位性を持つ可能性がある。これにより、AMDが得意としていたHPC(高性能計算)やAI分野でも競争が激化することは避けられない。
トランプ氏の半導体関税政策とAMDへのリスク
AMDにとって、NVIDIAの競争だけでなく、貿易政策の変化も大きな懸念材料となっている。特に、トランプ前大統領が台湾からの半導体輸入に関税を課す可能性があるという報道は、AMDのサプライチェーンに深刻な影響を与える可能性がある。
AMDの主要な製造パートナーであるTSMCは台湾に本社を置いており、AMDのCPUやGPUのほとんどがTSMCのプロセス技術によって製造されている。仮に関税が導入されれば、AMDの製造コストが上昇し、価格競争力が低下する可能性がある。一方で、インテルは自社工場を米国内に持つため、関税の影響を受けにくく、相対的に有利な立場に立つことになる。
また、TSMC自身も米国での生産拡大を進めているが、そのプロセス技術は最先端ではなく、AMDが求めるハイエンド向けチップの供給が完全に移行できるかは不透明である。このため、関税が導入された場合、AMDはコスト増加を製品価格に転嫁せざるを得ず、市場での競争力低下につながる可能性がある。
さらに、関税措置が米中関係とも絡むことで、AMDだけでなく半導体業界全体に広範な影響を及ぼす可能性もある。AMDにとっての最悪のシナリオは、関税コストの増大と市場競争力の低下が同時に進み、NVIDIAやインテルにシェアを奪われることだ。特に、NVIDIAがArmベースのサーバー向けチップを拡充すれば、AMDのx86依存度がさらに問題視されることになる。
このように、AMDは技術競争だけでなく、地政学リスクという外部要因にも直面しており、今後の戦略次第で市場の立ち位置が大きく変わる可能性がある。
AMDの今後の展望と生き残り戦略
AMDは現在、サーバー向けCPU「Turin」の成功によって一定の成長を維持しているが、長期的にはさらなる差別化戦略が求められる。NVIDIAのArmベースCPUやインテルの競争が激化する中、AMDはどのように市場での存在感を維持していくのかが焦点となる。
まず、AMDが取り組むべき課題の一つは、AI市場におけるGPUの競争力強化である。HSBCの指摘によれば、AMDのAI GPUのロードマップは市場の期待ほど強力ではなく、NVIDIAに対抗するにはさらなる技術革新が必要とされる。MI300シリーズの性能向上や、新たなアーキテクチャの開発が急務となる。
また、AMDがArmアーキテクチャの活用をどのように進めるかも注目点である。現在のところ、AMDはx86ベースの戦略を維持しているが、NVIDIAやAppleの成功を踏まえると、独自のArmベースCPUを開発する可能性も排除できない。特にデータセンター向けの選択肢として、Armを活用した製品ラインナップを拡充することで、市場の変化に適応することが考えられる。
一方で、AMDの強みは、CPUとGPUの両方を手掛ける総合的な半導体企業である点にある。AIやHPC分野において、統合型プラットフォームの強化や、ソフトウェアエコシステムの充実を図ることで、NVIDIAとの差別化を図る戦略もあり得る。特に、オープンソースソフトウェアとの連携を強化することで、クラウドプロバイダー向けの競争力を高めることが求められる。
このように、AMDは今後も成長の余地があるものの、競争環境の変化と地政学的リスクを見極めた柔軟な戦略が不可欠となる。NVIDIAやインテルとの競争が激化する中、どのような差別化戦略を打ち出せるかが、AMDの将来を左右する重要な要素となるだろう。
Source:Wccftech