イマジネーション・テクノロジーズがRISC-V CPU事業からの撤退を決定し、GPUとAI分野に集中する新戦略を打ち出した。同社は、2021年にRISC-VベースのCPU IPを導入し統合ソリューションを提供してきたが、市場の期待に応えられず、この分野から手を引く判断を下した。声明によると、グラフィックスとAI、エッジコンピューティングへの投資強化がビジネス変革の鍵になるという。
この決定は、独自命令セットアーキテクチャを基盤としたプロセッサ開発で知られたMIPSの歴史とも交錯し、イマジネーションの戦略転換の象徴ともいえる。また、中国企業との技術移転をめぐる批判や買収の動きが重なり、GPU開発の方向性に注目が集まる。
イマジネーションのRISC-V撤退が示す市場の現実
イマジネーション・テクノロジーズがRISC-V CPU事業から撤退する背景には、急成長が期待されたRISC-V市場の厳しい現実が存在する。同社は2021年にRISC-VベースのCPU IP「Catapult」を導入し、エントリーレベルから自動車用まで幅広い製品を展開してきた。
しかし、Armの支配力が根強い市場環境や高性能セグメントの競争激化により、期待された成長は実現しなかった。特に、中国市場での潜在的な需要は大きかったが、収益基盤を大幅に拡大するには至らなかった。
この撤退は、RISC-Vアーキテクチャそのものの失敗を示すものではない。むしろ、競争力あるソリューションを構築し、既存のプレイヤーに対抗する難しさを浮き彫りにしている。同社の声明にある「グラフィックスとAIへの投資」が象徴するように、イマジネーションは自社の強みを再評価し、より競争優位性が発揮できる分野に集中するという戦略的判断を下したと言える。
GPUとAIに注力する理由とその可能性
イマジネーションのGPUとAI技術への集中は、同社の持続的な競争力を高めるための論理的な選択である。同社は長年、GPU IP市場において実績を築いており、AI分野での成長性にも注目している。AIとエッジコンピューティングの融合が進む現代、GPUはAI処理の中心的役割を果たしている。これにより、グラフィックスとAI技術を一体化したソリューションの需要が今後さらに拡大すると予測される。
また、中国を拠点とするBiren TechnologyやMoore Threadsなど、競争が激化する中でも、イマジネーションは「選ばれる存在」を目指している。この方針は、単なる撤退ではなく、リソースを最適化し、成長分野に集中するための大胆な一手といえる。ただし、中国市場との深い関係をめぐる議論や政治的リスクが同社に影響を与える可能性は否定できない。
RISC-V撤退が業界に与える影響
イマジネーションのRISC-V撤退は、他の企業にも影響を与える可能性がある。RISC-Vはオープンソースの利点から、多くの企業が採用を進めているが、商業的成功を収めるには多大なリソースと市場分析が必要であることが明らかになった。イマジネーションの撤退により、同市場はArmやx86などの既存勢力に対する挑戦が一層厳しくなる可能性がある。
一方で、RISC-Vエコシステムそのものは引き続き成長を続けるだろう。イマジネーションはエコシステムへのコミットメントを維持すると述べており、GPUプロバイダーとして業界全体を支える役割を果たす方針である。これにより、同市場はイマジネーションの技術を間接的に利用しながら、さらなる進化を遂げる可能性が高い。ただし、この方向性が新たな競争環境にどのような影響を及ぼすかは今後の展開次第である。