統合GPU(iGPU)は長らく、ゲーミングやクリエイティブ用途では力不足とされ、ディスクリートGPU(dGPU)が市場を支配してきた。しかし、AMDの新しいAPU「Ryzen Strix Halo」がこの常識を覆しつつある。最新のベンチマークによると、RTX 4070ラップトップGPUを複数のゲームで上回る結果を記録。

特に1600p解像度の高設定において、いくつかのAAAタイトルで優位性を示した。この結果は、統合GPUが単なるコスト削減の手段ではなく、本格的なパフォーマンスを発揮する新たな選択肢として台頭していることを意味する。

Ryzen Strix Haloの実力を証明するベンチマーク結果の詳細

Ryzen Strix Haloのベンチマーク結果は、統合GPUが従来の「低性能」という評価を覆す可能性を示している。実際、特定のタイトルではRTX 4070ラップトップGPUを上回るパフォーマンスを記録している。

「Cyberpunk 2077」の1600p解像度・最高設定では、Ryzen AI MAX+ 395が平均39.4fpsを達成し、RTX 4070搭載モデルの37.3fpsを超えた。同様に、「Starfield」でも平均36.8fpsを記録し、RTX 4070の34.7fpsよりも優れた結果を示した。これらの結果は、iGPUがついにディスクリートGPUのパフォーマンス領域に踏み込みつつあることを示唆している。

ただし、すべてのゲームでRyzen Strix Haloが優位に立っているわけではない。「Red Dead Redemption 2」や「Doom Eternal」、「Rainbow Six Siege」ではRTX 4070の方が高いフレームレートを記録した。特にレイトレーシングを多用するゲームでは、RTX 4070の専用ハードウェアによる優位性が依然として大きい。

一方で、ゲーム以外の用途でもRyzen Strix Haloは強さを発揮している。Cinebench 2024のマルチコアスコアでは1,669ポイントを記録し、AppleのM4 Proの1,715ポイントに迫る結果を出した。これは統合GPUが、ゲーミングだけでなくクリエイティブな用途にも十分な性能を持ち始めていることを示している。

iGPUの進化が示す未来—ゲーミングノートPCの構成に変化はあるのか

Ryzen Strix Haloの登場により、統合GPUの価値が見直されつつある。従来、ゲーミングノートPCは高性能なdGPUを搭載するのが一般的だったが、iGPUの性能向上によって新たな選択肢が生まれつつある。

特に注目すべきは、電力効率と発熱の問題だ。dGPUは高性能である反面、消費電力が大きく、バッテリー駆動時間の短縮や発熱の増加といったデメリットを抱えている。一方で、Ryzen Strix HaloのようなAPUは、消費電力を抑えつつも高いグラフィックス性能を提供できる点が強みとなる。

加えて、ゲームタイトルごとの最適化も重要な要素だ。現在のAAAタイトルの多くはNvidiaのRTXシリーズ向けに最適化されており、AMDの統合GPUがその差を埋めるには時間がかかる可能性がある。しかし、今後のゲームエンジンの進化や開発者の対応次第では、iGPUの採用が増える可能性も十分に考えられる。

現時点では、iGPUが完全にdGPUを代替するわけではない。ただし、ノートPC市場において、軽量モデルや省電力重視のゲーミングノートの選択肢が広がることは間違いない。特に外付けGPU(eGPU)の活用が進めば、普段はiGPUで動作し、必要なときにeGPUを接続するといった運用も現実的になるだろう。

統合GPUは「妥協」から「選択肢」へと変わるのか

従来、統合GPUは「仕方なく使うもの」として位置付けられてきた。しかし、Ryzen Strix Haloのような新世代のAPUの登場により、iGPUは単なるコスト削減の手段ではなく、積極的に選ばれる選択肢になりつつある。

特に、携帯型ゲーム機市場ではiGPUの進化が顕著だ。Steam DeckやAsus ROG Ally Xといったデバイスは、AMDのAPUを活用することで、十分なゲーミング性能を提供している。こうした流れがノートPCにも波及すれば、iGPUを前提としたゲーミングデバイスの開発が加速する可能性がある。

もっとも、NvidiaやIntelもiGPUの進化に対抗する動きを見せている。IntelのArc 140T iGPUはArrow Lake世代のCPUに統合され、Asus Zenbook Duoで「Elden Ring」を快適に動作させるデモが公開された。このように、iGPUの性能向上はAMDだけでなく、業界全体のトレンドになりつつある。

今後、統合GPUが「妥協の産物」ではなく、「積極的に選ばれる選択肢」となるかどうかは、さらなる性能向上とソフトウェアの最適化にかかっている。もしこの流れが加速すれば、ゲーミングノートPC市場におけるdGPUの役割も再定義されるかもしれない。

Source:Laptop Mag