AMDは、今年初めのComputexでRyzen 9000シリーズデスクトッププロセッサーのラインナップを発表し、16%ものIPC(インストラクション毎クロック)向上による大幅な性能向上をアピールしていた。しかし、第三者によるレビューではその効果が十分に示されず、Windows環境でのパフォーマンスが最適化されていないことが判明した。

Windows 11においては、Ryzen 9000シリーズに必要なブランチ予測の最適化が欠けていたことが主な原因で、Linuxと比較して性能が劣る結果となっていた。最新のAGESAファームウェアアップデートにより、これらの問題が解消され、WindowsとLinuxの双方で性能が向上することが確認されている。

Ryzen 9000シリーズの期待された性能向上と実際のレビュー結果

AMDは今年初めに開催されたComputexで、Ryzen 9000シリーズのデスクトッププロセッサーを発表し、その特徴として16%ものIPC(インストラクション毎クロック)向上による大幅な性能向上を強調した。これは、従来のモデルと比較して大きな進歩であり、多くのユーザーがそのパフォーマンスに期待を寄せていた。しかし、実際の第三者レビューでは、その性能向上が予想ほどではなく、結果に疑問を抱く声も多かった。

原因の一つとして、Windows環境での最適化不足が指摘された。特にWindowsアカウント権限の問題がパフォーマンスに影響を与えている可能性が示唆され、Microsoftが隠し管理者アカウントでのテストを通じてこの現象を確認した。AMDは、これに対応するためのファームウェアとOSレベルでの最適化が必要であることを認め、その後のアップデートで改善を図ることとなった。

このような状況の中で、Linux環境でのRyzen 9000シリーズのパフォーマンスがWindowsと比較して優れている点が注目されるようになった。この差異を解消するためにAMDとMicrosoftが取り組んだ最適化作業が、後のBIOSアップデートにつながる。

Windows 11の最適化不足とLinuxとのパフォーマンス差

Windows 11では、Ryzen 9000シリーズのパフォーマンスを最大限に引き出すためのブランチ予測最適化が欠けていたことが明らかになった。この最適化不足により、Windows上でのパフォーマンスが期待通りのものではなく、Linux環境と比較して低い結果となった。特にマルチスレッド処理や高負荷なタスクにおいて、Linuxが優れたパフォーマンスを示したことが、この差を顕著にした要因である。

この問題に対して、AMDとMicrosoftは共同で対策を進め、Windows 11向けの最適化パッチをリリースすることとなった。パッチ適用後には、ゲームなどの特定のシナリオで平均10%のパフォーマンス向上が確認されており、ユーザーにとっては大きな改善となった。ただし、Windowsのクリーンインストールでもインストール環境によってパフォーマンスが変動するケースが報告され、依然として一部の不安定性が残る。

これにより、WindowsとLinuxの間のパフォーマンス差が徐々に縮まりつつあるが、完全な均衡に至るにはさらなる最適化が求められている。これがAMDの最新ファームウェアアップデートとAGESAにより、さらに改善されると期待されている。

TDP向上と新しいAGESAファームウェアの詳細

AMDはRyzen 9000シリーズの性能を最大限に引き出すため、TDP(熱設計電力)を65ワットから105ワットに引き上げるファームウェアアップデートを提供した。この変更により、プロセッサの動作クロックがより高く維持されるようになり、結果として性能の向上が期待できる。実際、MSIによると、このTDP向上によって最大で13%のパフォーマンス向上が見込まれるとされている。

また、AGESA(AMD Generic Encapsulated Software Architecture)PI 1.2.0.1Aアップデートでは、Ryzen 9000シリーズ特有のコア間レイテンシー問題が修正された。これにより、高負荷なタスクにおいても、よりスムーズな動作が可能となった。特にZen 5アーキテクチャにおける高スレッド数を活用する際に、その恩恵は顕著である。

このAGESAアップデートは、主にWindows環境での最適化が中心であったが、Linuxでも効果が見られることが確認されている。これにより、Ryzen 9000シリーズの真のパフォーマンスがようやく発揮されるようになり、ユーザーからの評価も向上している。

実際のパフォーマンス改善結果とLinuxでの評価

実際にAGESAファームウェア1.2.0.1Aや1.2.0.2を適用した結果、Linux環境でのRyzen 9950Xプロセッサーのパフォーマンスが以前のBIOSバージョンと比較して向上したことが確認された。テストを行ったPhoronixによれば、全体的なベンチマークの結果は誤差範囲内ではあるものの、一部のテストでは顕著な性能向上が見られた。

特に高負荷な処理やマルチスレッドを活用する場面において、最新ファームウェアの効果が明確に現れたとしている。これにより、Linux環境でのRyzen 9000シリーズの性能がさらに引き上げられ、現時点でも十分なパフォーマンスを発揮していることが確認された。

一方で、全385種類のベンチマークテストでは、パフォーマンスやCPUの電力消費に大きな変化は見られなかったと報告されている。とはいえ、これは既にRyzen 9 9950XがLinux上で高いパフォーマンスを維持しているため、さらなる最適化が大きな効果をもたらすことは難しいと考えられる。